研究課題
神経伝達物質であるドーパミンは、ドーパミン受容体を介して運動や情動など多様な神経活動を制御している。また、パーキンソン病の病態と治療にも密接に関連する。主要なドーパミン受容体であるD1受容体(D1R)とD2受容体(D2R)は、脳の線条体で高い発現が見られ、運動制御に深く関わる。我々は、D1R及びD2Rの役割を明らかにするため、独自の行動解析装置を用いて、D1Rノックアウト(KO)マウス及びD2RKOマウスをホームケージで5日間以上連続して運動量を測定した。その運動量を詳しく分析し、下記の新たな知見を得た。・D1R KOマウスは24時間当たりの運動量が上昇していたが、運動量上昇は暗期にのみに見られた。暗期の活動パターンを解析すると、活動休止している時間の長さは野生型マウスと変わらないが、活動時の単位時間当たりの運動量が極めて多い。・D2R KOマウスは24時間当たりの運動量が野生型マウスの50%程度まで減少しており、明期も暗期も減少していた。明暗リズムは保たれていた。暗期の活動パターンは、活動休止している時間の長さは野生型マウスと変わらないが、活動時の単位時間当たりの運動量が少ない。また共同研究により、線条体の神経細胞の電気生理学的解析を行ない、D1R,D2Rのそれぞれが、特徴的な機能を持つことが明らかになってきた。このような行動解析は神経活動の異常による行動異常の内容を知るために有用であり、今後、これまでに我々が開発した、D1R/D2R二重欠損の遺伝背景にドキシサイクリン(Dox)投与によりD1R発現抑制が可能な遺伝子操作マウスを用いて、遺伝子発現と運動制御について解析を行なう。
2: おおむね順調に進展している
D1R及びD2Rの遺伝子操作マウスの作成、運動量・摂食量・飲水量の長期間の定量的解析が順調に進み、D1RおよびD2Rは、それぞれ異なる運動調節の役割をもつ知見が得られている。共同研究により、線条体神経細胞の電気生理学的解析も進んでいる。
ドーパミンによる運動量・摂食量・飲水量の制御の仕組みの解明には、個別にD1R,D2Rの発現量を操作できる実験系が必要である。D1R,およびD2R単独のノックアウトマウスに加え、ドキシサイクリンの投与でD1Rを発現調節出来る遺伝子操作マウスを活用し、適切な時期にD1RおよびD2Rの遺伝子発現様式を変化させることにより、マウス個体の行動の変化を解析し、行動の制御機構の解明を推進する。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 287(17) ページ: 13859-13867
DOI:10.1074/jbc.M111.309864