アルツハイマー病脳では、immature neuronal markerが発現しているにもかかわらず、なぜ、ニューロン新生がおこらないのか?我々は「β-アミロイドがimmature neuronal markerを誘導するだけではなく、神経幹/前駆細胞の増殖や新生ニューロンの生存を阻害しており、それが、結果としてニューロン新生を抑制している」という作業仮説を提唱し、それを証明しようとしている。具体的には、β-アミロイドによって誘導され、神経幹/前駆細胞の増殖や新生ニューロンの生存を阻害する遺伝子を同定する。検索する候補として、β-アミロイドによって誘導され、神経幹/前駆細胞で発現する遺伝子を選んだ。今年度は、そのうちのChatに着目した。ChatはCAS(Crk-associated substrate)familyのC-末端に結合するが、その機能は不明である。CAS familyは細胞の分裂、移動、分化や死に関与するが、そのうち、NEDD9とp130Casが神経系にも存在する。そこで、まず、野生型およびADモデルマウス(Tg2576)大脳皮質における、Chat、NEDD9p、p130Casの発現局在を調べた。その結果、Tg2576では、ChatやCAS familyが分化途中のニューロンやmicrogliaにも発現するようになることがわかった。そこで、Chat遺伝子を神経細胞へ導入し、細胞の運命を蛍光免疫組織化学によって調べた。その結果、full-length Chatを導入した細胞では細胞死が誘導されたが、p130Cas結合部位を欠損したChatを導入した細胞では細胞死はおこらなかった。また、Chat-p130Casを共発現した細胞でも細胞死は誘導されなかった。このことは、Chatは結合標的との相互作用によって、異なる機能をはたすことが示唆された。
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