研究概要 |
「β-アミロイド(Aβ)が胎児性蛋白を誘導するだけではなく、神経幹/前駆細胞の増殖や新生ニューロンの生存を阻害するため、ニューロン新生が抑制される」という作業仮説を証明するのが本研究の目的である。そこで、網羅的遺伝子解析から得られた、Aβによって誘導され、神経幹/前駆細胞や幼弱ニューロンで発現する遺伝子(7種類)から、細胞の増殖や新生ニューロンの生存を阻害する遺伝子の同定を試みてきた。対象となった7遺伝子それぞれをEYFPとともに培養神経幹/前駆細胞や培養ニューロンに遺伝子導入し、細胞の増殖とニューロンの生存への影響を調べた。その結果、ただ一種類(Sh2d3c,Cas/HEF1-associated adoptor protein,Chat)がニューロンの生存を阻害すること、しかし、他のすべては、細胞増殖やニューロンの生存を阻害しないことがわかった。そのため、以降、Chat(Sh2d3c)に的を絞り、実験計画を実施した。ChatのC-末端は、CAS family proteinに結合する。Chatの過剰発現がニューロンの生存を阻害するためには、ChatのC-末端が必要であったため、ニューロン生存阻害作用はChat-Cas結合を介していると考えた。CAS family proteinのうち、p130CasとNEDD9が神経系でも発現している。p130Casは成熟に多く分布するのに対し、NEDD9は胎児脳に主として分布する。そこで、Chatの結合相手によってニューロン生存阻害作用が変化するかどうかを調べた。しかし、Chat-p130Cas、Chat-NEDD9のどちらを共発現させてもニューロンの生存は阻害されなかった。以上のことから、ニューロンの生存阻害には、ChatのC-末端にCas family protein以外の分子(未知)の結合が必要であることが示唆された。
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