手あるいは眼、および両者による視覚目標への到達運動に弓状溝周辺皮質が重要な役割を果たしていると考えられている。これら領域の機能特異性を明らかにするため、ディスプレイ上に呈示した中心固視点に対し上下左右等距離にある4つの視覚目標へ、眼と手のいずれか、あるいはその両方による以下のような到達運動課題を行うようサルを訓練した。その際、眼球運動を赤外線眼球運動計測装置で、またマウスを用いたタブレットで手運動をモニターした。運動に先行する準備期間中に、次に行うべき運動が手・眼のいずれか、または両方を動かすかを示す指示信号、および4つの目標点のうちどの目標に到達すべきかを示す指示信号をランダムな順で与えた。 その結果、弓状溝周辺皮質の深部から、眼あるいは手の運動にかかわらず、到達運動の開始から到達運動完遂までの間に同様の発火を示すものが多数存在しており、これらが運動指令のプロトタイプ(原型)であることが示唆された。前頭前野と運動前野の表層部には、手あるいは眼いずれかの最終運動司令を示す活動が記録された。さらに、注目すべきニューロン活動として、到達運動の遂行が完了するまでの自己運動のモニターをしていると考えられる活動が存在していた。 これらの結果から、弓状溝周辺皮質は到達運動のプロトタイプとなる司令を深部皮質で生成し、それをもとに運動前野と前頭眼野のそれぞれが手あるいは眼の効果器を制御する信号へと行動の要求に応じて変換する系として機能していると考えられる。すなわち、弓状溝周辺皮質全体として到達運動の生成・開始から到達の成果までを制御するミッションコントロールセンター(運用管制室)として機能していることが考えられる。これらの成果をまとめた論文を現在投稿中である。
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