研究概要 |
嗅覚は、生命維持のために必要な動物の行動に密接に関与する最も重要な感覚の1つで、進化の過程で原始から現在に至るまで保存されてきた感覚である。自然界には数十万といわれる匂い分子が存在し、昆虫、魚類、両生類、哺乳類などあらゆる動物は、これらの匂い分子を情報コードとして受容し、種の保存あるいは個体の生命維持に必要な行動(例えば食べ物を探す、天敵の接近など身の危険の察知、交配相手や親子の認識を含む社会行動など。)を誘引する。 本研究は、嗅覚という感覚から誘導される行動の中でも特に天敵臭によって誘引されるマウスの恐怖行動をモデルに、脳内の高次機能、神経回路のダイナミックスおよび記憶・学習によって可変性を解剖学的、生理学的、および分子生物学的見地から探ろうとするものである。これまでに狐の肛門腺から分泌されるTMT(2,5-dihydro-2,4,5-trimethylthiazoline)の匂い刺激によって先天的な恐怖行動を誘引する神経回路を解剖学的に明確にすることを目指し、まずは末梢レベルから段階的に検証していくために最初のステップとしてTMTと結合する嗅覚受容体(OR)を同定した。平成23年度はさらにこの受容体を発現する神経を人為的に活性化させることのできる改変マウスを作製することが出来た。また、無麻酔状態のマウスの匂い刺激に対する行動と嗅球における神経活動を同時解析するシステムもセットアップし、これによって匂い刺激によるマウスの行動様式の詳細を、時間経過を追って解析することが出来るようになった。この解析システムは今後改変動物を用いた神経回路の同定のための実験に用いる予定である。
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