研究課題/領域番号 |
22500357
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
倉橋 隆 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (90225251)
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キーワード | 嗅覚マスキング / LogD / 脂溶性 / 匂い分子 / CNGチャネル / 細胞培養 / 光活性化物質 / UVレーザー |
研究概要 |
我々の嗅覚は嗅覚粘膜で始まり、嗅細胞の持つナノレベル繊毛で化学-電気情報変換がなされる。嗅覚の特性には、a.匂い識別様式、b.信号増幅の分子機能、c.嗅覚順応の分子機構、d.嗅覚マスキングが挙げられるが、その分子機構には未知の点が残される。本研究プロジェクトでは、細胞培養法、マスキングの分子構造特性、刺激受容の空間分布に関する研究を行った。新規嗅覚刺激法として電気生理学とUVレーザー光学的手法を組み合わせることで、従来技術的に困難とされてきたナノレベル器官内での分子挙動計測を可能とし、特に分子制御を行う点に新規性・重要性を考慮して開発した。新システムでは、ナノ構造繊毛を観察し、繊毛内部の分子を制御し、分子挙動を実時間レベルモニターして、従来から残されてきた問題を解決し「香り感覚受容の諸特性」を、物理化学的分子実体と挙動の観点から説明した。嗅細胞の匂い情報変換は、セカンドメッセンジャーであるcAMPやCa^<2+>によって仲介され、CNGチャネル、Clチャネルの連続的な開口で電気信号発生する。しかし同時に、CNGチャネルを流入したCa^<2+>がCNGチャネル自身にフィードバックをかけることで嗅覚順応起こる(Kurahashi & Menini, 1997 Nature)。このように細胞内ではcAMPとCaイオンが嗅覚の情報変換に密接な役割を演じているが、従来の研究においては、ナノメートル領域の細胞空間が実験調査の進展を阻んでいた。本研究では、細胞内因子制御技術及び因子のリアルタイム可視化、嗅覚マスキングの分子機構がCNGチャネルの閉鎖であること、その過程の分子メカニズムを世界に先駆けて発表した。また、繊毛内Ca^<2+>に対して実時間制御を行った結果、情報変換過程における繊毛内で応答は空間的に独立であり、少なくとも2マイクロメートル以上の距離間ではcAMPやCaイオンの拡散が起こらないこと、これは、細胞内Caバッファーに依存すること、また、嗅覚マスキングは匂い分子が細胞膜に融合してから起こる可能性が高いことなどを提唱し、国内外の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的にある新規システムの構築及びそのシステムにおける実験施行・データ取得は達成している。更に、嗅覚マスキングの分子機構における新知見、ナノ構造繊毛内でのcAMP・Ca^<2+>の制御と可視化、電流計測を行い、嗅覚情報変換における応答様式が近郊では独立であることを発見したことからも、学会における反響は大きい。本研究において新規作成した実験セットアップは嗅覚分野のみならず、微細構造体を有する細胞器官に対しても、応用可能であることが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は嗅覚分野及び嗅神経細胞のみならず、ナノ構造体を持つ細胞器官に広く応用・適用することが可能であることが示唆される。特に、微細器官におけるリアルタイムでの応答特性や分子ダイナミクスなどを調べることが可能となる。また、嗅覚マスキングの分子機構に関しては、更に詳細な実験・研究を重ね、匂い分子が細胞膜に融合してから起こる可能性について検討する必要があると考えている。
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