パーキンソン氏病においては、突進現象(曲がれない、止まれない)やすくみ足(最初の一歩が出せない)などの歩行障害が観察される。これらの障害は上丘(視蓋)での神経活動の破綻が基礎にあるという作業仮説の下、1)ゼブラフィッシュの脳眼球脊髄摘出標本を実験モデルとして完成する、2)ロコモーション中における視蓋および脳幹網様体の神経活動を光計測する、の2点について研究を開始し次の問題点と成果を得た。ゼブラフィッシュ成魚では血流遮断後、視蓋および前脳の反応性の低下が著しく脳眼球脊髄摘出標本から満足のいく神経活動を安定して記録することが難しかった。これは主にゼブラフィッシュの酸素需要が高い為と考えられた。そこでモデル動物を、ゼブラフィッシュと同じ小型魚類で、かつ比較的酸素需要が低いと考えられるメダカ(Oryzias latipes)に変更した。メダカ成魚の脳眼球脊髄摘出標本では、視蓋等の神経活動を良好に記録することができた。しかしながらこの標本でも網膜の機能は十分でなく、脳眼球脊髄摘出標本の完成には今後一層の改善が必要である。以上と並行して、無麻酔非動化したメダカ成魚の視蓋における視覚応答の時空間パターンを、膜電位感受性色素RH1691を用いた光計測システムにより記録した。具体的には、メダカ成魚を下顎で固定し、下方からサイン波状明暗が変化する縞模様を縞と直行する向きに動かしながら提示した際の視蓋における神経活動を、実時間光計測法によって記録した。視蓋の比較的限局した部位に縞模様の時間周波数に一致した神経活動が記録された。また無麻酔で体幹の運動を部分的に拘束したメダカにおいて、同様の視覚刺激によって、縞模様の移動方向に応じたロコモーションが惹起されることを確認した。
|