パーキンソン氏病では突進現象(曲がれない、止まれない)やすくみ足(最初の一歩が出せない)などの歩行障害の症状がみられるが、この神経基盤は不明である。本研究では、大脳基底核からの過度な抑制性出力によって上丘の活動が抑え込まれることによりこれらの障害が出現するという作業仮説のもと実験的検証を試みた。当初、ゼブラフィッシュを実験モデルとして大脳基底核-上丘(視蓋)系のロコモーションにおける機能を詳細に調べることにより、パーキンソン氏病における歩行障害の病態解明を計画した。しかしその後、研究は進むにしたがい、ゼブラフィッシュやメダカなどの小型魚類と比較して、円口類ヤツメウナギが実験技術上のいくつかの利点を有していることが明らかになってきた。そこで新たにヤツメウナギを動物モデルとして前述の作業仮説の検証を行うことに変更した。当初計画と同様に成熟ヤツメウナギ Lethenteron japonicum を用い脳眼球摘出標本を作製した。この際に上行性動脈から氷冷人工脳脊髄液を注入した後に手術を行うことで、標本の状態が著しく向上することを確認した。摘出標本を5-7℃の人工脳脊髄液内で保存し、脊髄の尾側部分のみをグルタミン酸またはNMDA溶液に浸すことで、ロコモーション様の自発活動や、方向転換(ステアリング)、停止、再開などのロコモーション調節用の神経活動を誘発させることが可能であることを確認した。同時にに膜電位感受性色素RH1691を利用した光計測法により仮想遊泳中の視蓋の神経活動の記録を行った。実験手技の確立に当初予定していた以上の時間を要したため、いまだに実験データ量が十分でなく、今後も継続して光計測・解析を続けていく予定である。
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