研究概要 |
これまでに申請者らは,グレリンKOマウスでは血圧・心拍数の日内リズムに異常が認められ,交感・副交感神経活動のリズムが消失していることを明らかにし,自律神経系による血圧調節機構にグレリンが関与している可能性が示峻された。しかし,このような自律神経活動のリズムの消失が血圧・心拍数の日内リズム以外の自律神経活動にどのように関与しているのかは不明であった。そこで本研究は,摂食促進ホルモンのグレリンについて,自律神経機能の調節メカニズム(体温および血圧調節)を明らかにすることを目的とし,本年度(平成23年度)はグレリンKOマウス(KOマウス)に認められる血圧・心拍数の日内リズムの異常が,視床下部-SCNの体内時計の異常によるのか,それとも中枢性と末梢性摂食リズムとのトーンバランスの不調和の一つとして生じているのかを調べた。(1)KOマウスに認められた血圧・心拍数の日内リズムの異常(血圧・心拍波形のVariability解析から,KOマウスのLF/HF比が明・暗期を通し高いレベルのまま推移しており,明・暗期共に交感神経活動が優位になっていた。)は,長期恒常暗(21日間)条件下では,明暗周期と無関係な不安定な血圧・心拍数変動として観察され,KOマウスにはサーカディアンリズムに同調した血圧・心舶数リズムの異常が存在することが明らかとなった。82)絶食時や制限給餌時の血中グレリン濃度の上昇と共に,野生型マウスでは血圧・心拍数の上昇が認められ,血圧・心拍数,空腹時グレリン濃度は有意な正の相関が存在したが,KOマウスにはそのような変動は観察されなかった。以上の結果から,KOマウスに認められた血圧・心拍数の日内リズムの消失は,明期における自律神経活動の異常によることが考えられ,中枢性と末梢性摂食リズムとのトーンバランスの不調和の一つとして生じていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)グレリンによる体温日内リズム調節機構における自律神経活動について,平成22年度の研究計画にて明確にすることができ,2)グレリンによる自律神経機能を介した血圧調節機構に関しては,平成23年度研究計画にて一部明確になり,平成24年度(最終研究実施年度)の研究実施項目の基礎データとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題にて自律神経機能の調節メカニズム(体温および血圧調節)におけるグレリンの役割が明らかになったが,体温および血圧調節以外の自律神経活動へのグレリン関与については不明な点も存在する。今後は,グレリンによる自律神経機能の解析の一つとして記憶学習実験,弁別学習実験,空間認知実験などの行動解析が必要と考えられる。また,自律神経失調症を代表とする自律神経機能の異常が認められる様々な神経疾患におけるグレリンの病態生理学的意義を明確にする必要がある。
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