これまでに申請者らは、グレリン遺伝子欠損(GKO)マウスでは血圧・心拍数の日内リズムに異常が認められ、交感・副交感神経活動のリズムが消失していることを明らかにし、自律神経系による血圧調節機構にグレリンが関与している可能性が示唆された。しかし、このような自律神経活動のリズムの消失が血圧・心拍数の日内リズム以外の自律神経活動にどのように関与しているのかは不明であった。そこで本研究は、摂食促進ホルモンのグレリンについて、自律神経機能の調節メカニズム(体温および血圧調節)を明らかにすることを目的とし、平成24年度は、アドレナリン作動性薬物やアドレナリン作働性効果遮断薬投与後のKOマウスの血圧調節機構の変化を詳細に検討し、グレリンの自律神経活動を調べた。 ①グレリンの交感神経を介した血圧調節機構の解析:野生型(WT)マウスにおけるノルアドレナリン投与後の血圧・心拍数の上昇は、GKOマウスでは軽度であり、合成グレリンを持続投与したGKOマウスでは無処置のGKOマウスに比べ大きかったが、WTに比べ小さかった。また、ノルアドレナリン投与後の血圧・心拍数の上昇は、α、β遮断薬にて抑制され、グレリンが交感神経に抑制的に作用する可能性が示唆された。 ②グレリンの副交感神経を介した血圧調節機構の解析:;一般に胃内のグレリン分泌は、迷走神経胃枝を介して摂食中枢に作用することから、迷走神経切除後のWTマウスでは、GKOマウスと同様の血圧・心拍数のリズムの消失が認められ、GKOマウスにおける血圧・心拍数の日内リズムの異常は、迷走神経を介したグレリンにより生じる可能性が示唆された。 本研究から、胃から分泌されたグレリンは、中枢レベルで自律神経機能を調節して血圧・心拍数のトーンバランスを制御することが明らかとなった。
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