研究概要 |
多くの神経細胞同士は、1平方ミクロン以下のごく小さい面で、互いに接しており、このシナプス接合部において、信号の受け渡しが行われている。この狭い空間に、脳における情報処理の本質の多くが詰まっているのだが、シナプス形態のわずかな違いや発現している分子の数・分布等のわずかな揺らぎによって、信号伝達特性が大きく変わることが予想される。本研究では、シナプスの微細構造が神経細胞間の信号伝達特性にどのような影響を与えるのかを調べ、生理的機能を果たすのにどのように役立っているのかを明らかにすることを目的としている。昨年度においては、網膜-外側膝状体(LGN)-皮質へと伝わる初期視覚回路を研究し、視神経線維一本を立て続けに刺激すると、応答が急速に抑制されることを見出した。シナプスから溢れ出た伝達物質が近隣のシナプスの受容体を脱感作させることで応答が抑制されることが明らかになった(Budisantoso,Matsui*,et al.,2012)。しかし、これまでの研究においては、シナプス間隙へと放出されるグルタミン酸分子の数、および、細胞間隙におけるグルタミン酸の拡散係数が、どうしても確定できないパラメーターとして残っていた。そこで、電気生理学・形態学・シミュレーションの全ての面で精緻な解析のしやすいcalyx of Heldシナプスに研究対象を移し、これらのパラメーターを求めることで、細胞間隙におけるグルタミン酸の振る舞いを完全に表現することを目指した。この数値が求まることで、シナプスにおける信号伝達を規定する要因のひとつを確定できるのと同時に、シナプスから溢れるグルタミン酸の効果を、より定量的に評価できるからである。現在、シミュレーションを重ねることで、上記パラメーターを確定することに努めている。
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