理化学研究所行動遺伝学技術開発チームによって作製されたグリオトランスミッター(GT)の開口放出に関わると考えられるアストログリア細胞内のカルシウム濃度をモデュレートするトランスジェニックマウス系統(IP3-sponge Tg)について形態学的および生化学的解析を行った。電顕解析により、海馬CA1のトリパータイトシナプス(Ts)の微細構造は、カルシウム濃度を抑制するIP3-spongeの発現によってアストログリアの足突起と接していないシナプスの形成頻度が有為に増加していたが、ドキシサイクリン(Dox)の投与によってIP3-spongeの発現を抑制すると、Ts形態に変化は生じなかった。これらの結果から、GTの放出を誘導しうるのに必要なカルシウム濃度の上昇がTsの構造制御に関わっていることが示唆された。また、IP3-spongeの発現量を調べるため、融合タグであるGSTタンパク質を指標とし、前脳で発現するGST量をイムノブロット法で定量し、免疫組織化学によって計測した組織体積当たりのアストログリア細胞数からモル分子数を外挿し、単一細胞当たりの発現分子数を約4500(組織重量当たり6.5pg/mg)と算出した。また、Dox投与によって発現分子数は著しく減少した。次に、 Tgマウスの海馬アストログリアに発現するマーカータンパク質であるGFAPおよびGLP-1について、発現を解析したところ、GFAPの発現低下を認めた。そこで、細胞骨格系タンパク質であるGFAPの発現低下がTsの構造変化に関与しうるのかについてGFAP-KOマウスで同様に解析したところ、GFAP欠損下では変化が起きていなかった。以上の結果から、この Tgマウスは、アストログリアで特異的に細胞内カルシウム動態を変化させるのに有効なモデルマウスであること、Tsの構造変化にはGFAPが原発性ではないことが示された。
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