発達期の大脳皮質視覚野は高い可塑性を示し、視覚体験が視覚野細胞の反応選択性形成に多大な影響を及ぼす。また正常な反応選択性形成には、抑制性伝達が必須であることも示されている。我々は、視覚野5層錐体細胞に、睡眠・覚醒時の活動を模したパターンで活動させると、細胞体部の抑制性伝達に長期増強および抑圧が誘発されることを報告した。今回は、錐体細胞の樹状突起部での抑制性伝達に着目し、同様の睡眠、覚醒パターンがどのような可塑的変化を生じさせるかを検討した。 生後20-35日令のラット大脳皮質視覚野より、堂阪社製マイクロスライサー(Pro7、本研究で購入の主要物品)を用いて、厚さ0.3mmの前額断切片標本を作製し、人口脳脊髄液中で灌流した。IR-DIC顕微鏡下で、5層の錐体細胞からwhole cellパッチ記録を行い、樹状突起部に置いたガラス電極から、抑制性伝達物質であるGABAを電気泳動的に投与して、それにより生じる抑制性電流を記録した。記録電極からの電流注入により覚醒状態を模した活動パターンで錐体細胞を活動させたところ、GABAに対する応答に、長期増強、および長期抑圧が生じた。しかし、徐波睡眠を模した活動パターンは、GABA応答に長期的な変化を引き起こさなかった。さらに、薬理的にL型Caチャネルを阻害すると、長期増強が起こらなくなり、P/Q型Caチャネルを阻害した場合には長期抑圧が起こらなくなった。 これらの結果は、視覚野5層の錐体細胞において、細胞体部と樹状突起では睡眠・覚醒の活動パターンにより引き起こされる可塑的変化のメカニズムが異なることを示している。
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