本計画は、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)によってチャネルロドプシン(ChR2)またはハロロドプシン(NpHR)を霊長類個体の大脳皮質神経細胞に発現させ、光を用いて霊長類個体の神経細胞活動や行動をリアルタイムに実験的に操作する系の確立を目指し、さらにこの新技術をマカクサル下側頭葉連合野に存在する視覚性対連合記憶を担う神経細胞ネットワークに適用し、記憶の神経回路メカニズムを解明することを目指すものである。 今年度はCAGプロモーター制御下にChR2を発現する組み換えAAV9を作製し、ラット、およびマカクザルの一次運動野の上肢領域に注入し、発現させた。AAV9はほぼ神経細胞特異的に遺伝子導入することが我々の研究により確認されているものである。これらにおいて、麻酔下にて光照射を行い、同時に微小電極による神経細胞活動の記録を行った。その結果、光照射に応じた神経活動を誘導することに成功した。さらにECoG電極を用いてAAV注入部位周囲において多点電極記録を行い、光刺激による神経活動誘発の空間的分布を計測した。 光照射によって上肢運動が誘発されることが期待されたが、確認できなかった。しかし、サルにおいて光刺激時、上肢筋電図を同時記録したところ、光刺激に応じた筋電の変化を認めた。したがって何らかの原因により、光刺激による神経活動の誘導が運動誘発の閾値に達しなかったと考えられる。 以上より、研究計画の予備的結果を得るとともに、技術的問題もまた明らかとなった。これらの結果を受け、現在問題点の改善を進めている。
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