ヒトはより多くのことを知りたいという欲求、すなわちより多くの情報を求める欲求をもっている。この欲求は多くの高次思考過程を駆動する原動力の一つとなっている。本研究は、情報の多い少ない、すなわち情報の量を計算する脳内神経機構に焦点を絞り、下記の解析を行った。まず、情報量の定義として(1)「正解を言い当てられる確率の増加分、Baronら(1985)」(2)「外界の認識を表す確率分布の変化量、Wellsら(1980)」(3)「不確実性の指標であるエントロピーの減少量、Shannon(1949)」を取り上げ、脳内で計算されている情報量が上記3つのいずれであるかを同定することを試みた。そのために、行動の結果得られる情報量が上記の3つの定義によって異なる行動課題を考案し、サルに訓練した。その行動課題を遂行中のサルの前頭前野から神経活動を記録して、得られた活動が上記3つの情報量定義のどれと整合性をもつかを調べることを試みた。その結果、エントロピーの減少量と整合する活動を示す細胞が多数存在することを示した。 また、1次視覚野における単純細胞と複雑細胞の活動が示す各種の特性をエントロピー最大化の原理に基づいて説明できることを数理モデルの解析によって示した。すなわち、単純細胞と同様の特性をもつ細胞からなる第1層に第2層を付加した神経回路モデルを構成し、層間の結合強度を入出力間のエントロピー最大化によって学習させた。その結果、学習成立後の神経回路モデルにおいて第2層のモデル細胞がもつ各種の特性が、脳内で記録された複雑細胞のもつ特性を再現していることを示した。このことは、脳内の1次視覚野においてエントロピー最大化の原理の下に神経回路が構成されている可能性を示唆する。
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