本研究では、実験用近交系マウスC57BL/6 (B6)と野生由来近交系マウスMSM/Ms (MSM)の間に認められる遺伝的多様性に注目し、順行性遺伝学的手法を用いることで睡眠・覚醒調節に関係する新規遺伝子の同定を目指している。5番染色体上にレム睡眠に関わる遺伝子が存在する事を示唆した報告がいくつかあるため、B6の全染色体のうち5番染色体のみをMSMに置換した5番コンソミックマウスに注目した。5番染色体完全置換マウスは繁殖上の問題があるため、テロメア側およびセントロメア側の各々半分の領域が置換された系統B6-Chr5C^<MSM> (5C)とB6-Chr5C^<MSM> (5T)で維持されている。このため、本研究ではまず、B6、5T、5Cについて睡眠表現型を網羅的に比較し、以下の3形質について系統間相違を見いだした。1.5TはB6に比べレム睡眠量が半減していたが、B6と5Cに差は認めなかった。2.レム睡眠時の脳波成分指標であるシータ波ピーク周波数が5TはB6に比べ有意に減少していたが、B6と5Cに差は認めなかった。3.5TはB6に比べてノンレム睡眠も大きく減少しており、覚醒時間の延長が認められたが、個々の覚醒持続時間の延長を伴っていた。一日の中での最も長く覚醒していた時間(最長覚醒時間)を比較すると5TはB6に比べて約2.5倍長いが、B6と5Cに差は認めなかった。今後は、1.B6と5Tを掛け合わせて得られるF1の睡眠表現型を解析することでこれら3形質の遺伝様式を調べる。2.F1を掛け合わせて得られるF2について、睡眠表現型と遺伝子タイピングを同時に進めることで連鎖解析を実施し、3形質を規定する原因遺伝子について5番染色体上の遣伝子座の絞り込みを行う。
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