C57BL/6(B6)を受容系統とし、5番染色体の41~86cM領域をMSM染色体と置換したB6-Chr5TMSM(5T)はB6と比較して、1)最も長く覚醒していた時の持続時間(最長覚醒持続時間)、2)シータ波帯域ピーク周波数(TPF)、3)高振幅脳波の3表現型において特徴的差異が認められることを明らかにした。そこで、これらの遺伝様式を調べるため、B6と5Tを交配させて得たF1を調べた。その結果、F1の最長覚醒持続時間は、B6と5Tの中間形質となること、F1のTPFおよび高振幅脳波発生回数はB6と近い形質となることが明らかとなった。注目したF1の3表現型の内、2表現型がB6と近いものとなったことから、戻し交配体を用いると効率が良いと考え、N2を使用して3表現型に関与する遺伝子座の絞り込みを実施した。 N2の最長覚醒持続時間は72.6-243.6分の間に分布していた。この中で、最長覚醒持続時間が150分以上の個体の表現型は5T型、100分未満の個体はF1型であると推定できる。それらの個体では、原因遺伝子近傍のマーカーにおける遺伝子型が表現型と一致している可能性が高い。この考え方に基づくと、最長覚醒持続時間の原因遺伝子が存在する可能性が一番高いのはD5Mit338(59cM)近傍であった。同様の解析を行った結果、TPFはD5Mit338(59cM)とD5Mit141(74cM)、高振幅脳波発生回数はD5Mit338(59cM)の近傍に原因遺伝子が存在することが推測された。 以上の結果より、B6と5Tの間にみられる表現型の差異、及びその原因となっている遺伝子座のおおよその位置が明らかとなった。今後、さらに細かくマーカーを配置した上での連鎖解析や、5TのMSM染色体置換領域をより限局してMSM染色体に置換したサブコンソミック系の睡眠解析をすることで、原因遺伝子の同定が期待される。
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