これまでに、ウサギの精子凍結保存液については、いくつかの凍害防止剤を用いた方法が報告されている。いずれも凍結融解後に生存精子が得られること、人工授精後に産仔が得られることが報告されている。まず、これらの中からもっとも安定した成績を示す凍結保存液を確認するとともに、凍結融解後の精子運動率を指標に精子の冷却速度等について検討を進めた。その結果、卵黄アセトアミド溶液が最も安定した結果を示した。次に、卵黄アセトアミド溶液を用いて冷却速度の検討を実施した。冷却速度が遅くなるにしたがい凍結融解後の精子運動率は高い値を示す傾向が観察された。-0.8℃/minよりも速い速度で冷却した場合、融解後の精子運動率は有意に低下した。さらに、凍結融解後の精子を用いた人工授精の効率的な条件についても検討を行った。人工授精に用いる精子数を増やすことにより妊娠率、平均産子数ともに向上する傾向が観察された。人工授精に用いた精子数あたりの産子数で比較した場合、40×10^6個の運動精子を用いたときが最も効率よく産子を得られることが示唆された。また、人工授精における精子注入とドナーウサギの排卵誘発時間について、人工授精後5時間と10時間で排卵させる群で比較検討を行ったが、両者で有意な差は認められなかった。 以上のようにウサギ精子の凍結保存液として卵黄アセトアミド溶液を用いて、凍結方法、凍結融解後の精子を用いた人工授精について効率的な条件を見いだすことができた。しかし、卵黄アセトアミド溶液にはニワトリの卵黄が含まれている。卵黄は、家畜の精子凍結の際も凍結保存液にしばしば加えられているが、品質が安定しない、微生物汚染、海外へ輸送する場合には卵黄自体が検疫対象物となるなどの問題点を有している。そのため、卵黄を含まず化学的に構成成分が明らかな新規の凍結保存液の開発も検討したい。
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