本研究では、安全なワクチンや治療薬開発の基礎研究として、HIV感染の動物モデルであるSIV感染サルで誘導される抗体の解析を行ってきた。本年度は、昨年度に分離したリン脂質、dsDNAに結合する自己抗体の細胞障害活性の解析を行った。また、HIV-1感染患者から自己抗体産生B細胞の分離を試みた。 SIV感染サルから得られた、リン脂質、dsDNAに結合する自己抗体や、SIV感染サル血漿の細胞障害活性を、細胞から放出される乳酸脱水素酵素(LDH)の測定や、蛍光標識した標的細胞のフローサイトメーターによる検出によって解析した。その結果、SIV感染サル血漿や、SIV感染サル由来の抗リン脂質抗体及び抗dsDNA抗体には、細胞障害性活性が認められなかった。 HIV-1感染患者から自己抗体を分離するため、HIV-1感染患者の末梢血リンパ球にEBVを感染させ、多数の抗体産生B細胞株を樹立した。産生された抗体のHIV-1非感染細胞表面への結合活性をフローサイトメーターによって解析し、自己抗体を産生する細胞株を選択した。また、HIV-1 Env発現細胞を用いて同様の解析を行い、HIV-1 Envに特異的に反応するIgG産生B細胞株の分離も行った。その結果、非感染細胞への反応性が異なる多数の自己抗体産生B細胞株と、少数のHIV-1 Env特異的IgG産生B細胞株が得られた。 自己抗体による細胞障害性が検出されなかったことは、SIV感染サルにおける自己抗体の誘導が直接的に細胞障害性と関連していないことを示唆している。また、HIV-1感染患者から得られた多数の自己抗体産生細胞は、HIV-1感染患者における自己抗体の誘導を改めて示し、今後の自己抗体の解析に有用な材料となると考えられる。
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