研究課題/領域番号 |
22500389
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
張 丹青 順天堂大学, 医学部, 助教 (40296877)
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研究分担者 |
小林 敏之 順天堂大学, 大学院・医学研究科, 准教授 (40260070)
樋野 興夫 順天堂大学, 医学部, 教授 (90127910)
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キーワード | Erc/mesothelin / Tsc2遺伝子 / GPIアンカー蛋白 / ノックアウトマウス / シグナル伝達 |
研究概要 |
Erc(Expressed in renal carcinoma)遺伝子は遺伝性腎癌モデルEkerラットの腎発がん過程で特異的に発現する遺伝子で、ヒト中皮腫に関連するmesothelin遺伝子のホモローグであり、Tsc2 KOマウスの腎腫瘍細胞においても強発現している。Tsc2とErcはマウス17番染色体に近接して存在するため、減数分裂時の相同組換えにより両遺伝子の変異アレルをシスに持つマウスの個体を樹立し、さらにTsc2ヘテロ変異個体で有り、且つErcのホモ変異を持つマウスを作出した。本年度も我々が樹立した腎腫瘍細胞株を用いて、腫瘍発生・増殖におけるErc/mesothelin遺伝子の役割およびシグナル伝達系への影響を調べた。その結果、(1)Tsc2/Erc両欠損腎腫瘍細胞株にTsc2を強発現させた場合、EGF受容体リン酸化(pTyr1068)のレベルが高くなる一方で、EGF受容体全量は著しく減少することがわかった。(2)Ercは脂質ラフトに存在することが密度勾配遠心による細胞分画法を用いて確認することができた。上記の結果は我々以前得たErcとIntegrin及びその下流のPI3K-Aktシグナルへの影響に関連するものと考えられ、ErcがIntegrinとEGF受容体リン酸化の関連に重要な役割を持ち、細胞内外に情報を伝達し、細胞接着に関連し、腫瘍発生を促進・維持することが推察される。Erc/mesothelin産物は細胞外膜タンパクであることから、脂質ラフトを介して、腫瘍細胞と周囲の環境との相互作用に重要なシグナル伝達におけるErcが果たす役割について、細胞増殖因子刺激による表現型分析や3次元培養などを利用した解析を進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の交付申請書に記載した「研究実施計画」の内容をほぼ遂行した。本年度の研究結果は我々が以前明らかにしたErcとIntegrin及びその下流のPI3K-Aktシグナルの制限に加え、ErcがEGF受容体リン酸化に重要な役割を果たし、細胞内外に情報を伝達し、細胞接着に関連し、腫瘍発生を促進・維持することを示した新規の知見である。
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今後の研究の推進方策 |
Erc/mesothelin産物は細胞外膜タンパクであることから、脂質ラフトを介して、腫瘍細胞と周囲の環境との相互作用に重要なシグナル伝達においてErcが果たす役割について、細胞増殖因子刺激による表現型分析や3次元培養などを利用した解析を進める。具体的には(1)準備した病理標本を用い、シグナル伝達系の動態変化の指標となるリン酸化タンパク特異抗体等による免疫染色を行って細胞レベルでの様子を検討し、in vivoにおいてErc発現と関連して変動するシグナル伝達系を明らかにする。(2)3次元培養(コラーゲンマトリックスや軟寒天培地中)での増殖細胞におけるErc発現の効果を、細胞塊の形態の変化を中心に観察する。細胞接着関連分子の特異抗体を用いた免疫染色法により、細胞塊全体の様子や個々の細胞の極性等に対するErc発現の影響を調べる。(3)これまでに見出しているシグナル関連分子の強制発現とsiRNAによるノックダウンがErcの機能にどのような効果を示すか、前年度より利用している細胞群を用いて解析する。IntegrinやEGF受容体シグナルなど、Ercの発現によって変化する細胞の表現型に、結合因子がどのように関与するのか明らかにする。
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