本年度は,昨年度確立した生体材料内における氷結晶計測法により,耐凍剤を浸透させた生体細胞内の氷結晶を計測し,耐凍剤の効果を評価した.耐凍剤にはエチレングリーコル(EG)を選び,EG水溶液は0wt.%(未処理)10 wt.%,20 wt.%,30 wt.%,40 wt.%50 wt.%とした.供試材料として生牛肉の筋繊維を選び,EG水溶液に120min浸した.試料は,ドライアイス(-78℃)上部と液体窒素(-196℃)上面の銅版により60min凍結した.試料の分光画像は,極低温マイクロスライサスペクトルイメージングシステムにより撮影(1500 nm)した.得られた分光画像から氷結晶の面積,長軸,短軸,長短軸比を計測し,相当円直径を算出した.ドライアイスにより凍結した0wt.%の氷結晶の相当円直径は,最小24.8μm,最大139.1μm,平均45.2で,50wt.%は最小18.1μm,最大71.1μm,平均36.8であった. 液体窒素により凍結した0wt.%の氷結晶の相当円直径は,最小20.6μm,最大158.3μm,平均47.7で,50wt.%は最小12.9μm,最大79.6μm,平均25.8であった.両者の相当円直径は,EG0wt.%からEG30wt.%までは,EG濃度の増加ともに相当円直径が小さく算出されたが,EG30wt.%からEG50wt.%の間では大きな変化が見られなかった.これは,凍結方法が異なっても,生体細胞に耐凍剤としてEGを使う場合,EG30wt.%程度が目安になることを示唆している.また,液体窒素による凍結で生成された氷結晶が小さいことが分かった.本手法は,「耐凍剤」「氷結晶」「細胞破壊」などの相互関係による生殖組織の最適凍結保存法を解明するツールとして応用されると考えられる.
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