多因子疾患の解析には、発症と遺伝子マーカーとの相関関係を指標に原因遺伝子の存在領域を絞り込む連鎖解析法が有効であるが、ヒトは寿命が長く遺伝的背景が複雑で交配実験が不可能なため限界がある。そこで自由な交配が可能なマウスなどのモデル動物が広く用いられている。老化促進モデルマウス(SAM)は、老化度評点の加齢依存的な増加を指標として確立された系統であり、項目により様々な表現型をもつ亜系統マウス(P1-P11)が存在する。本研究ではP6とP8の表現型の違いを各種行動試験や連鎖解析を行って解析し、加齢依存的な表現型多様性に関わる遺伝子を探索することを目的とする。これまでに、2ヵ月齢のP6とP8では、運動量はP8が高く、記憶には差がなく、アルコール嗜好性はP6が高いこと、6ヵ月齢のP6とP8では、運動量はP6が高く、記憶はP6が高く、アルコール嗜好性はP6が高いこと、を明らかにした。次に、P6とP8を交配し、雑種第一代、バッククロス第一代、雑種第二世代のマウスを得、これらのマウスが2ヵ月齢に達した時点で、運動量、記憶、アルコール嗜好性を測定した。その結果、これらの表現型は多因子疾患であることが示唆するデータが得られた。現在、これらの表現型に対し、317種類のマイクロサテライトマーカーからP6とP8の間で多型があり、各染色体につき約20cMの間隔となるような90カ所以上のマイクロサテライトマーカーを用いて全ゲノム的なQTL解析を行なっている。本研究では、多数のマウス匹数とこれを飼育するためのスペースを確保することに加え、行動試験では出産日の揃ったマウスでのデータを取得することが重要である。そこで上述した表現型が自然交配による個体と凍結受精卵や凍結配偶子による体外受精で得られた個体とで差が無いことを確かめた上で、体外受精法により多数の必要なマウスを確保し解析に供与した。
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