ENU-mutagenesisにより代表者は聴覚関連遺伝子機能解析のモデルとなる突然変異体マウスの検索を大規模に実施し、20系統以上の難聴マウス変異体を単離した。これらの点突然変異による遺伝性難聴マウスは、HDFN(ヒト非症候群性難聴)のモデルとなり得るが、HDFNを、ヒト加齢性・老人性難聴と比較して同様の病態の存在を厳密に示すのは簡単ではない。HDFNには多数の進行性難聴が含まれるものの、その加齢変化、進行性内耳障害に関する詳細な解析は乏しく、逆に、ヒト加齢性・老人性難聴に関し遺伝的要因がどの程度関わるかについては殆ど解明されていない。しかしながら、HDFNの既知の原因遺伝子群が極めて多様性に富み、かつ未だ多数の原因遺伝子未知家系が存在する事を考慮すると、これら2つの病態の中に、共通の発症機構が存在する可能性は低くないのではないかと考えられる。実際、HDFNの加齢変化が報告されている多くの例で、その原因遺伝子の老人性難聴への関与が示唆されている。ヒトでの実験的な解析には限界があるため、HDFNのよいモデルであるENU-mutagenesisによる、遺伝性難聴マウスの表現型・発症機構を解析する事は、加齢性難聴を理解するための重要な知見をもたらす可能性があると期待される 代表者は上記ENU変異体repertoireの初期解析を進める中で、聴覚表現型として顕著な加齢性聴力低下を示す系統を含む、5系統の新規難聴変異体候補を同定した。これらの系統は、未知難聴遺伝子に点変異を持つと考えられ、新しい難聴遺伝子の発見に繋がる可能性が高い。当該年度において、これらの原因遺伝子変異同定を目的とし、物理地図作製、表現型連鎖解析によるマッピングを行った所、この内の1系統に既知の難聴遺伝子の存在しない約2Mbの領域を同定し、この変異体が新規の難聴系統である事を確認した。更に未知の新規遺伝子変異同定、表現型解析、組織学的解析を遂行し、加齢性難聴モデルとしての意義を検討するための基盤となる知見を得る。
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