SDラットの腸骨リンパ節から摘出した集合リンパ管(輸入リンパ管)における内因性硫化水素産生と、集合リンパ管に対する外因性硫化水素の反応性をex vivoの実験系で検討した。その結果、1)PAG(選択的CSE阻害薬)は、集合リンパ管の自発性収縮頻度を有意に増加した。従って、集合リンパ管からの硫化水素の基礎的分泌は、集合リンパ管の自発性収縮を調節していることが判明した。2)硫化水素の基質であるL-システインは、集合リンパ管の自発性収縮頻度を有意に減少させた(負の変時作用)。このL-システインによる集合リンパ管負への変時作用は、PAG処置によって正の変時作用へと転じた。3)硫化水素のドナーであるNa2Sは、集合リンパ管自発性収縮に対して負の変時作用を惹起した。グリベンクラミド(選択的ATP感受性K+チャネル阻害薬)は、このNa2Sによる負の変時作用を有意に解除した。4)SDラットのリンパ系組織(腸骨リンパ節とその輸入リンパ管)におけるCSEの発現とその分布を免疫組織科学によって検討した。CSEは、集合リンパ管壁に(平滑筋や細胞外マトリックス)分布していることが判明した。さらに興味深いことに、CSEはリンパ節辺縁洞床面の内皮細胞に限局して強発現していることが判明した。これらの結果は、リンパ系組織におけるCSE分布の多様性を示す。5)集合リンパ管のL-システインによる負の変時作用は、集合リンパ管壁に存在するCSEによる内因性硫化水素産生を介して発現し、その反応性の一部にATP感受性K+チャネルの関与する事が判明した。6)本研究は、硫化水素や含硫アミノ酸によるリンパ管の生理学および病態生理学のメカニズムの解明やその関連するリンパ管系疾患の治療に対する橋渡し研究として重要な知見を提示できた。
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