生体と電子回路を融合する次世代式経皮情報通信システムの開発において,最終年度は動物実験用通信デバイスの開発とヤギを用いた動物実験による性能評価,その実験結果をもとに更なる性能向上を目指し生体組織―電極間界面抵抗の簡便な測定法の考案と本通信方式に最適な電極の選択に関する研究を行った. 白金イリジウム電極を用いた体内通信ユニット(直径34mm,厚み10mm)を腹腔内,胸腔内,心膜上に設置すると同時に直腸内通信ユニット(直径22mm,長さ42mm)を肛門から挿入し,体外側通信ユニットを首,耳たぶ,角に設置し,覚醒下のヤギに通信電流を印加し通信実験を行ったところ,28日間の実験でASK変調通信電流7mA(搬送波周波数4MHz,10MHz)で通信速度115kbpsの全二重通信を行うことができた.これは人体通信による世界初の体内ー体外間通信実験であり,通信中の心電図信号解析により心臓生理学的に影響が無いことを確認した.しかし,体外側では表皮―電極間界面の電気環境が,また体内側では生体組織―電極間の安定な機械的接触が通信特性に大きな影響を与えることが明らかになった. 人体通信を応用した体内―体外間通信には電極―生体組織間の電気的・機械的安定な接触が必要であることより,市販のLCRメータを用いた簡便な生体組織―電極間界面抵抗の測定法を考案し,ステンレス,チタン,2種類の銀―塩化銀電極に加え,骨再生足場材料であるチタンメッシュについて,体表上ならびに生体組織電気特性を模擬したファントムを用い生体組織―電極間抵抗の測定を行った.その結果,ステンレス電極が最も生体組織―電極間抵抗が小さく体外側通信ユニット用電極に最適であることが分かった.チタン及びチタンメッシュ電極もステンレス電極に次ぐ小さい生体組織―電極間抵抗を有し,また生体適合性にも優れることより体内側通信電極として期待できると考えられる.
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