研究概要 |
本研究の目的は,ヒトの視覚情報が大脳視覚野に至るまでの2つの伝達経路(M経路とP経路)について (1)両経路の機能評価を同時に短時間で行う他覚的方法を確立すること (2)両経路の応答に視覚的注意が与える影響を定量的に捉える他覚的方法を確立すること,の2点である. 本年度は,(1)の測定方法を提案し,既存の設備を用いて提案法の妥当性を確認した. M/P経路同時に刺激し,かつVEPから両経路の機能評価を分離抽出して,機能バランスを適切に評価できるような視覚刺激として,正弦波縞を2値の疑似ランダム系列(PRBS)にしたがって反転する刺激を採用した.このPRBS刺激提示中の脳波(EEG)信号とPRBSとの相互相関関数を逐次的に算出して得られる2次バイナリ核関数の振幅により,両経路機能特性を分離抽出することができる.さらに,刺激の縞の空間周波数をP経路選択的(高空間周波数)なものからM経路選択的(低空間周波数)に,あるいはM経路選択的なものからP経路選択的なものへと連続的に変化させることで,両経路の機能特性とバランスを1回の刺激により測定することとした.視覚刺激の安全性およびM/P経路の特性から,刺激の平均輝度は50cd/m^2,コントラスト50%とし,空間周波数は0.01~9c/dの範囲とした. 既設の刺激・測定システムを用いて,予備的な実測を行った結果,PRBS刺激の空間周波数の増減に応じて,被験者の後頭部視覚誘発電位の2次バイナリ核関数が規則的に変化する傾向を確認した.また,2次バイナリ核関数の特徴は,従来報告されているM/P経路を選択的に刺激した場合のそれと同様であった.これより,本提案手法の妥当性が確認できた.本結果を踏まえて,適切な刺激条件を調査するための実測と評価を追加して,提案手法に基づく効率的な計測法を確定するとともに,目的(2)の検討を進める予定である.
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