研究概要 |
近年,背景に提示された知覚閾下で運動する視覚情報,すなわち「見えざる運動」によって,中心窩に提示された視覚パターンの認知パフォーマンスが低下することが示された.fMRIによる脳イメージング解析により,無意識下で進行する視覚運動情報処理によって,注意機構によるトップダウンの抑制が十分に機能しなくなることが示唆されているが,生体信号などの客観的な生理指標に基づいた評価は未だなされていない.本研究は,固視微動の統計的解析に基づいて,「見えざる運動」の影響で注意機構が正常に機能していない状態を客観的かつ定量的に評価し,このとき生じる認知レベルの低下を正確にモニターする技術の開発を目指すものである.本年度は,まず固視微動解析に必要な計測時間を確保するための実験条件の確立と,この時の固視微動の計測および基本的な特徴量の分析を目指した.ターゲット刺激として用いた2重リングパターンの提示数や提示時間,妨害刺激や背景とのコントラスト比などを調整させることで,1試行あたり5.6秒間の計測が可能となった.この時に得られた固視微動に対して,マイクロサッカードの発生頻度の解析を行った.従来手法では,ノイズの影響によるマイクロサッカードの誤検出が問題となっていた.そこで,窓幅の異なる2種類の低域微分フィルタを適用した2つの信号に対し,それぞれに異なる基準を設けて閾値処理を施し,これらの論理和を取ることで,検出精度の向上を実現した.提案手法におり検出されたマイクロサッカードの発生頻度を分析した結果,知覚閾下の運動情報が提示されている際には,マイクロサッカードの発生頻度が変化することが示された.マイクロサッカードは注意機構の活動を強く反映した生理指標であることから,知覚閾下の運動情報がトップダウン性の注意の制御にも影響を及ぼすことが示唆される
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