研究課題/領域番号 |
22500418
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
小濱 剛 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (90295577)
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研究分担者 |
吉田 久 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50278735)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 固視微動 / マイクロサッカード / 視覚認知パフォーマンス / トップダウン注意 / ボトムアップ注意 / 知覚閾下 / コヒーレント運動 / 定量的評価 |
研究概要 |
近年,背景に提示された知覚閾下で運動する視覚情報,すなわち「見えざる運動」によって,中心窩に提示された視覚パターンの認知パフォーマンスが低下することが示された.fMRIによる脳イメージング解析により,無意識下で進行する視覚運動情報処理によって,注意機構によるトップダウンの抑制が十分に機能しなくなることが示唆されているが,生体信号などの客観的な生理指標に基づいた評価は未だなされていない.本研究は,固視微動の統計的解析に基づいて,「見えざる運動」の影響で注意機構が正常に機能していない状態を客観的かつ定量的に評価し,このとき生じる認知レベルの低下を正確にモニターする技術の開発を目指すものである.本年度は,まず,マイクロサッカード検出精度の向上を目的に,離散パルス変換を利用した自動検出手法を提案した.固視微動データに対し,多重LULUフィルタを用いた信号の二値化処理を行い,マイクロサッカードの直前と直後に生じる急峻な変動をパルスとして出力する手法を開発した.次に,注意の集中に伴って,マイクロサッカードが抑止されるか否かについて検証を行った.高速連続刺激提示(RSVP)課題を用いて,視野の中央部に連続的に提示されるアルファベットの読み取り課題を課した.ターゲット文字のコントラストにより読み取りやすさを調整し,注意の集中度を統制した.また,中心窩近辺以外への注意の分散による影響を評価するために,上記のRSVP課題に加えて,周辺視野に低速で回転する低コントラストのガボールパッチを表示し,その回転の有無を問うダブルタスクを課した.実験の結果,注意の集中度合いが高いほど,マイクロサッカードの発生が抑止されることが示され,注意が集中しているときほど,周辺視野に生じたわずかな運動刺激の影響を受けにくいことが示された.このことから,「見えざる運動」の影響は,中心視野に限定される可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去2年間の成果として,視野内の「見えざる運動」の存在によって中心窩の認知パフォーマンスが劣化し,このときにマイクロサッカードの発生頻度が影響を受けることを示した.また,マイクロサッカード解析のための,自動検出アルゴリズムを提案してきた.今年度は,さらに高精度な検出手法を提案するとともに,高次視覚系とマイクロサッカード制御系の関係を明らかにし,「見えざる運動」が中心視近辺には影響しない可能性を示した.よって,研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ,固視微動中のマイクロサッカードにのみ焦点をあてて分析してきた.申請者らのこれまでの成果により,ドリフトと呼ばれる注視中の揺らぎ成分もまた高次視覚系の影響を受け,特定の周波数帯域に注意の集中度合いの効果が生じることが示されている.今年度の成果として,高精度なマイクロサッカードの検出が可能となったことから,今後はマイクロサッカードを適切に除去して得られたドリフト成分を解析対象とし,周波数解析などにより,「見えざる運動」による影響の数値化に取り掛かる.さらに,時間周波数解析などを用いた眼球運動の揺らぎの変動の分析や,固視微動の数理モデル化によるメカニズムの解明にも着手する予定である.
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