微弱な高周波電界を用いることで、生体内の誘電率分布を安全に測定し、体内の水分量(血液、体液、膀胱内尿量)や脂肪、空隙の分布を求め、内臓脂肪、皮下脂肪、膀胱内尿量、肺機能を計測する技術の開発を行っている。 実験装置の主要な機能である生体内の組成の影響によって強度が変化した高周波信号の測定に、従前は計測装置であるスペクトルアナライザーを用いたが、汎用の測定装置であるため、測定の条件や得られる精度等に制約があった。そこで前年度までに信号処理の大部分を高速処理のできるコンピューターのソフトウェアで実行できる、ソフトウェア受信機(SDR) を導入して、計測に適した測定と信号処理を行うように改良した。さらに、本年度は、SDRを増設して、アンテナを含む測定系に改良を施し、高周波信号の位相情報を含めた測定ができるようにした。 この新たな計測システムで、水分含有量が大きい人の組織と同程度の誘電率を持つ水をアクリル製の槽に入れてファントムとして用いたモデル実験と、実際の人の腹部の測定を行った(3MHzおよび48MHz)。その結果、水槽の測定では水槽を水平方向にスキャンしても、信号の振幅は大きく変化するのに対し、位相には変化が表れなかった。一方、人体の腹部を水平にスキャンした際には、信号の振幅の変化と同時に位相にも変化が現れた。測定された位相の変化は、測定開始点からの相対的な変化であり、この情報だけでは誘電率によって電解強度が高められる効果と、人体内を高周波電流が流れることによる損失分とを分離することはできないが、少なくとも損失による影響を測定できたことが確認できた。今後、装置にさらに改良を加え、実験の条件を工夫することで、損失の分離を目指したい。
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