本研究で開発したマイクロ流体デバイスであるポリマー製CTCチップ(血中循環腫瘍細胞捕捉チップ)は、表面特性をコントロールすることなどにより、細胞懸濁液中の癌細胞を選択的に効率良く捕捉できることが分かっている。このチップは癌細胞表面のEpCAM(上皮細胞接着分子)をターゲットとして捕捉するが、CTCにおけるEpCAM量は癌の分類などにより変化し、また個人でも分布があることが分かっている。従ってCTCチップ性能を評価する上では、EpCAM量の異なる癌細胞や異なる種類の癌について、捕捉効率を確認することが必須となる。そこで本検討では、EpCAM量が異なる食道癌細胞株および乳癌細胞株を用いて捕捉試験を行い、ポリマー製CTCチップの捕捉効率を測定した。これまでに使用してきた食道癌細胞株(KYSE220)に加え、下記癌細胞株を使用して捕捉試験を行い、下記の捕捉率を得た。 【食道癌細胞株】KYSE150(EpCAMがKYSE220の半分程度):92%、KYSE510(EpCAMがKYSE220の1/6程度):99%、(KYSE220:92%) 【乳癌細胞株】MCF7:90%、SKBR3:91% これらの結果より、本研究で検討した範囲ではポリマー製CTCチップは極めて良好な捕捉性能を示すことが分かった。またこれらの捕捉率データは文献値と比較すると同等かまたは高く(例えばSKBR3について約70%の報告がある)、本研究のCTCチップが優れた性能を有することが分かった。 この結果をもとに、富山大学医学部第2外科において臨床サンプルを使用したCTC捕捉試験を実施した。血液サンプルでは同定手法の課題があり未だCTC捕捉の確認に至っていないが、乳癌、胆嚢癌の胸水、腹水サンプルにおいては癌細胞の捕捉を確認している。
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