動物細胞を対象とした「ミクロセル融合法」は、染色体を供与細胞から受容細胞に移すことを可能にした。これまで、ヒト染色体をマウスES細胞に移入する系がゲノム/エピゲノム研究に大きく貢献したのに対し、正常ヒト細胞への染色体移入はきわめて困難であって、懸案のまま残されている。染色体をiPSなど幹細胞に移入できれば、ヒトの再生/遺伝子医療をはじめ発生、分化、疾患研究に新たな方法論を提供できる。本研究は、ミクロセル融合法の素過程を改良し、受容細胞に対する指向性を持ち効率の高い「染色体を単位としたゲノム輸送システム」確立を目指す。 前年度までに、ミクロセル融合法の効率改善に対し、1)麻疹ウイルスエンベロープ由来の細胞膜融合タンパク質の利用が有効であること、2)さらにウイルスエンベロープタンパク質の細胞外ドメイン末端に一本鎖抗体を付加することにより、受容細胞に対する反応指向性が操作できることを明らかにした。この成果は、麻疹ウイルス(弱毒化Edmonstonワクチン株)由来のヘマグルチニン(H)タンパク質およびフュージョン(F)タンパク質発現プラスミドを、ヒト染色体ベクター供与細胞(CHO)に共導入し安定発現株を取得することにより達成した。しかしながら染色体ベクターに搭載する目的遺伝子の発現ユニットは多種にわたる為、その都度安定発現株を取得し、なおかつ染色体ベクターのクオリティーを検定することは極めて煩雑な手順となる。そこでHおよびFタンパク質発現プラスミドのヒト染色体ベクター供与細胞への導入法を検討したところ、該プラスミドの一過性導入によっても安定株に匹敵する導入効率を確保できることが明らかとなった。
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