抗原性によりA-G型に分類されるボツリヌス毒素のうち、ヒトに中毒をきたすのは、主にA、B、E、F型である。A、B型ボツリヌス毒素の腸管からの吸収には、ボツリヌス神経毒素と複合体を形成する無毒成分の赤血球凝集素HAが重要であるが、E、F型ボツリヌス毒素にはHAが存在せず、その腸管からの吸収機構は未だ解明されていない。そこで、A型だけではなくE型ボツリヌス毒素の腸管吸収機構を利用した腸管への薬物送達システムの開発を目指して、E型ボツリヌス毒素の腸管吸収機構も解析した。 前年度、E型毒素では、7S毒素(神経毒素単独)の方が12S毒素(神経毒素に赤血球凝集活性を示さない無毒成分NTNHが結合)よりもCaco-2(ヒト結腸癌由来)細胞への結合性が高く、NTNH単独ではCaco-2細胞に結合しないことを明らかにした。E型毒素ではトリプシンの作用により毒力が数百倍上昇することが知られているので、本年度は、トリプシン処理がE型ボツリヌス毒素のCaco-2細胞への結合性に及ぼす影響を解析した。E型ボツリヌス毒素をトリプシンで処理しても、未処理の場合とCaco-2細胞への結合性は変わらず、7S毒素の方が12S毒素よりもCaco-2細胞への結合性が高かった。また、E 型の場合、Caco-2細胞への結合は主にボツリヌス神経毒素のC-末端50 kDaの神経細胞結合ドメイン(Hc)を介して行われことが明らかになったので、今後、細胞内動態の解析やCaco-2細胞透過性の定量的評価を可能にするために、Hcを部位特異的に蛍光標識するためのcycteine-rich tagがHcのN-末端に付加されるように設計された大腸菌発現ベクターを構築した。
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