眼には血液網膜関門(BRB)が存在し、点眼や静脈注射では後眼部への薬物送達は困難であるため、加齢黄斑変性症などの網膜疾患には硝子体内注射による治療が適用されている。本研究は、疾患関連因子の産生を遺伝子レベルで抑制する短鎖リボ核酸(siRNA)をくすりとし、これを非侵襲的かつ効率的に網膜などの後眼部に送達させるためのデリバリーシステムの構築を目指す。 平成22年度は、先ず、核酸を内封する脂質ナノ粒子(リポソーム)の調製法について検討した。薄膜法では核酸はほとんど内封されなかったのに対し、カチオン性高分子ポリエチレンイミン(PEI)と複合体を形成させた核酸をコアとして界面活性剤除去法によってリポソームを調製したところ、封入率が約80%、粒子径約180nmの負電荷を持つ核酸内封リポソームを得た。このとき、脂質量の増加に伴う封入率の増大が確認された。さらに、生体内での核酸の安定性向上を期待して、ヒアルロン酸およびポリエチレングリコール(PEG)の修飾を試みた。siRNA単独では、RNase Aにより速やかに分解されたのに対し、PEGを修飾した群では試験開始24時間後も約60%のsiRNA残存率を示し、生体内のヌクレアーゼによる分解から核酸を保護するキャリアとなっていることが確認された。また、網膜色素上皮細胞への選択的な送達を期待して、網膜細胞に発現するトランスフェリン(Trf)受容体に着目し、Trfをリガンドとして修飾した核酸内封リポソームの調製を試みた。その結果、調製したリポソームは、網膜細胞において高い遺伝子導入能を示し、細胞表面のTrf受容体を介して取り込まれることが確認された。さらにラットに点眼し、網膜組織周辺への分布について、ラット眼球切片の共焦点顕微鏡観察によって、調製したTrf修飾リポソームが点眼後網膜近傍に特異的に分布することが示唆された。現在、さらに小さくヒト網膜細胞におけるリポソームの細胞内取込みならびに凍結乾燥による粉末化について検討を進めている。
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