培養基材などに増殖因子、サイトカインなどのシグナル分子を固定化することで、細胞の分化や組織形成の誘導に効果があるか、またその条件を示すことを目的としている。因子固定化の手法としてまず、(1)光反応性のヒトゼラチンを作製した。この修飾型ゼラチンは、トランスジェニックカイコによって生産された組み換えタンパク質に光反応性基を導入したものである。シグナル因子と混合して、UV照射することにより、基材-ゼラチン-因子間が共有結合される。この手法で多数種の因子類を、アレー状に個別のスポットとして、培養基材に活性を持った状態で固定化させることが可能となった。また、(2)培養用ポリスチレンの他に、アパタイトやチタンなどの医用材料への因子類の固定化も検討した。その場合は、これら材料への結合性をもつペプチド配列を因子類に連結させて融合タンパク質とする手法をとった。因子類の培地への添加では容器内の環境が一様になるのに対し、スポットアレー状に因子類を固定化すると、容器内に異なる環境区画を作り出すことが可能となる。これによって細胞の因子への反応性を比較することができるだけでなく、それら因子によって異なる刺激をうけた細胞同士がどのような相互作用を行うかを観察する手段が提供されると期待される。 これまで主に(1)の手法で種々の増殖因子を固定化し、ヒト血管内皮細胞と平滑筋細胞の共培養に及ぼす効果の検討を行い、VEGFまたはFGFが固定化された区画において、内皮細胞が分岐した毛細血管様構造を形成する可能性が見いだした。この現象は一方の細胞だけではおこらず相互作用の結果と考えられた。また、ヒト骨髄単核球から選別された接着性の細胞に対して、これら血管新生因子が、内皮細胞への分化を誘導する可能性が示された。
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