研究概要 |
本研究では,超音波診断装置の大きな特徴であるリアルタイム性を最大限利用し,これまで蓄積してきた生体組織の音響特性の検討結果と超音波信号の処理方法の検討結果とを総合した肝臓病変の定量診断システムを構築し,臨床のデータとモデル実験・シミュレーションデータを統合した特性評価を行い,臨床的実用システムを開発することを目的としている。これに,われわれが構築を進めている「超音波定量診断学」の中で,肝疾患を具体的な病変として取り上げ,臨床的展開を図るものである。 超音波画像のランダムな散乱体からの反射波で画像を生成すると,反射信号振幅の確率密度関数がレイリー分布になることが知られているが,本研究ではこれまでに,肝炎や肝硬変などのような線維化が肝臓全体に進行するびまん性肝疾患では,複数のレイリー分布を組み合わせることで,超音波反射信号の振幅分布を極めてよく表現できることを示した。本年度研究では,昨年度行った生体疑似組織ファントムと計算機シミュレーションによる検証に,臨床データによる検討を加え,肝病変の定量診断手法の開発を進めた。定量化手法にとって,得られた指標値と実際の生体組織の状況が対応しているかを検証することは重要であるが,病変組織を模した生体組織の散乱体分布と画像を計算機シミュレーションにより作成し,対応する臨床データとファントムを用いて得られたデータとを比較し,定量化手法により推定した組織中の線維の量と質の推定精度について検討した。これらの結果から,臨床データに適用する場合の問題点が抽出され,血管内部,線維組織と正常組織に対するレイリー分布を複数組み合わせることで,定量化精度がより一層向上することが示され,実用的な臨床システム構築の基礎データを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝病変の定量化のために開発した手法の臨床的検討に進むことが23年度の目標であったが,簡単な生体疑似ファントムによる検討と,肝臓組織が病変により変化していく計算機シミュレーションモデルによる検討を経て,臨床データの初期検討を行うことができ,おおむね目標を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った生体疑似組織ファントムによる検証,計算機シミュレーションによる検討,臨床データの初期検討を踏まえて,臨床データによる検討をさらに進める。 臨床データとそれに対応する病変組織を模した生体疑似組織ファントムを作成し,臨床データとファントムを用いて得られたデータとを比較し,定量化手法により推定した組織中の線維の量と質を比較しながら問題点を抽出する。さらに,本研究で開発した肝臓組織が病変により変化する様子をシミュレーションする計算モデルを用いて,生体組織変化と得られる超音波信号との間の関係を精査する。開発した定量化手法の特性を評価し,モデル実験と臨床データの結果も加味して,生体組織の線維化を安定に定量化するための最適なパラメータとアルゴリズムを探索する。
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