研究課題
これまで開発してきた脳腫瘍セラグノーシスシステムは、頭蓋外から診断用、治療用の超音波トランスデューサーを用いて脳腫瘍の診断と治療とモニタリングを同時に行うシステムである。本研究ではシステムの有用性を高めるため超音波による核酸デリバリーシステムを追加してより安全かつ効果的に脳腫瘍を治療する技術を開発することを目的とする。昨年度まで500kHz,5.8W/cm2の超音波で腫瘍モデルに核酸が導入されること、到達した核酸は多くが細胞質内に留まることなど、対象とする核酸はGタンパクRhoのキナーゼ(ROCK)が有力であることが明らかになっている。本年度はより効果の強いターゲット核酸の選定と条件が得られた超音波照射の安全性の検討を行った。核酸を脳腫瘍組織に導入する技術で特定のタンパク質の発現を上下させることができるが干渉RNAを用いてROCKを低下させる以外にもEGFRの低下、PTENの過剰発現などで腫瘍細胞の増殖が制御できることが確認できた。さらに抗癌剤との効果を組み合わせるとこれらの遺伝子のうちROCKアイソフォーム1とPTENの制御が効果的であることも判明した。また超音波条件の安全性についてはシークエンサーを用いて中枢神経細胞のトランスクリプトーム、特にストレス関連の遺伝子の発現等について網羅的な解析を行った。マウス大脳に超音波照射して転写量が変化する遺伝子を調べたところ星膠細胞ではリード数が極端に増加する遺伝子がある一方、小膠細胞ではRNAの転写量は増えるものの星膠細胞のような極端なものは検出できなかった。超音波照射は生体内で遺伝子転写を変化させることが分かり、影響については対象となる中枢神経の細胞ごとに解析する必要があることが示された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画で予定した研究を年度内で確実に遂行できており、おおむね順調に進展していると思われる。
研究計画通り来年度システムの完成を目指す。超音波照射の条件等は確定しているので、具体化のため対象とする核酸配列の選択、安全性等について検討を深めていく。研究計画の変更や遂行上の問題点は今のところ格別にない。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Anticancer Research
巻: 31 ページ: 3253-3258
巻: 31 ページ: 1653-1658