研究概要 |
本課題の目的は,二つの独自技術「自律駆動マイクロチップ」と「層流樹状増幅法(LFDA)」により簡便・迅速で高性能なイムノアッセイ検査を実現することである.本年度は前立腺がんのマーカーである前立腺特異抗原(PSA)をモデル抗原として用い,主に抗体を基板に固定化する方法の検討を行った.まず,これまで他の抗原(CRP)で実績のあった,物理吸着による方法で抗体を固定化した.精製ずみのPSAとヒト女性の血清(PSAを含まない)を購入し,それらを適宜混合して模擬サンプルを作製した.それらのサンプルに対してイムノアッセイを行ったところ,検出限界は0.52ng/mLとなり,これは血清の代わりにバッファを用いた場合(0.49ng/mL)と大差なく,血清中の夾雑物が測定にほとんど影響しないことが分かった.また,LFDAによる増幅を行わない場合の検出限界(140ng/mL)と比較すると200倍以上高感度であり,LFDAの効果が実証された 次に,あらかじめ抗体を共有結合させた基板でマイクロチップを作製した.具体的には,ガラス基板の表面をアミノ化した後,デキストランを介して抗体を共有結合させた.次にPDMS基板上にマイクロ流路を加工し,それを抗体固定化ガラス基板と接合してマイクロチップを作製した.このマイクロチップでは,イムノアッセイの各試薬に界面活性剤を添加しても,抗体が表面から脱離しないと考えられたので,実際に加えて実験したところ,非特異吸着が大幅に抑制され,PSAの検出限界1pg/mLという超高感度を達成した.比較のため,抗体を物理吸着させたマイクロチップにおいて同様な実験を行ったところ,抗体が脱離してしまい,測定に適さないことが分かった.以上の結果から,抗体を基板に共有結合して,試薬に界面活性剤を添加することが感度向上に有効であることが分かった
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