研究概要 |
本課題の目的は,二つの独自技術「自律駆動マイクロチップ」と「層流樹状増幅法(LFDA)」により簡便・迅速で高性能なイムノアッセイ検査を実現することである.これまでに,前立腺がんのマーカーである前立腺特異抗原(PSA)をモデル抗原として技術開発を行い,高感度検出に成功している.本年度は,この手法によって3種類のがんマーカータンパク質(AFP=αフェトプロテイン,CEA=がん胎児性抗原,PSA)を同時に検出,定量する実験を試みた. ヒトAFP,CEA,PSAそれぞれに対する抗体をスライドガラス表面に共有結合で固定化した.固定化には幅100μm,間隙100μmのPDMS流路を用いて,平行線状の抗体パターンを作製した.そのPDMSをはがし,別のPDMS流路(Y字型,幅100μm,深さ25μm)を抗体パターンに直交するように配置して,マイクロチップを完成した.各抗原をウシ胎児血清に溶解してサンプルとし,自律駆動法およびLFDAを用いてイムノアッセイを行った.サンプル体積は0.5μL,測定時間は20minとした. まず反応の特異性を確認するために,一つの抗原のみを高濃度(1μg/mL)に含むサンプルで実験を行ったところ,対応する抗体パターンのみで強い蛍光が観察され,その他の抗体パターンにおいて有意な交差反応は観察されなかった.次に各抗原を同時に変化させて,対応する抗体パターンにおける蛍光を測定して検量線を作成した.検出限界は0.56ng/mL(AFP),0.22ng/mL(CEA),0.61ng/mL(PSA)となり,臨床的に意義のある濃度範囲を十分にカバーする測定可能域が得られた.これらの結果から,本手法が複数疾患マーカーの同時POCTに有望であることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
計画通り,自動キャリブレーション法,検出器の小型化,使い勝手の改善などに取り組む.また,近年,体液中を循環するマイクロRNAが新しい疾患マーカーとして注目されてきている.このマイクロRNAも,本研究の技術によってPOCTの対象になり得ると考えられるので,この方向にも研究を推進してゆく所存である.
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