平成22度は、研究代表者らが開発した抑制課題付有効視野測定法(Visual Field with Inhibitory Tasks:VFIT)を、75歳以上の後期高齢者においても容易に実施できるように改良し、VFIT-Elder Version(VFIT-EV)として、その有用性を検討した。 VFITは、17インチディスプレイのノートパソコンと12ボタンUSBゲームパッドを用いて実施し、検査プログラムは、単純反応検査、中央反応検査、周辺視野検査および二重課題検査からなり、二重課題検査によって有効視野が測定できるようになっている。この二重課題検査の中央にある刺激を4個の弁別から2個の弁別に簡略化して課題難易度を下げた。また老眼の影響を軽減するため、ディスプレイと頭部との距離を400mmから500mmに変更した。その変更に合わせて中心刺激と周辺刺激との距離を従来版と同様の視野角(4°、7°、10°、14°)に呈示されるよう修正した。ただし、最も難易度の高いStage4(14°)は上下方向がディスプレイから呈示位置がはみ出してしまうため、左右方向のみ14°で呈示し、上下方向は10°で呈示することとした。呈示刺激サイズは見かけ上VFITと同じサイズになるよう約20%大きくした。このVFIT-EVと従来版のVFITを、自動車運転免許を持ち日常的に運転している60歳から90歳までの4名を対象として実施した。対象者は脳血管障害などの神経疾患や眼科的疾患など視覚情報の処理に障害がでるような既往歴がないことを確認した。 その結果、全ての対象者で、正解率はいずれのステージでもVFITに比べVFIT-EVの方が高成績となった。VFITでは二重課題検査でステージが進み課題難易度が上がっても(ステージが進む毎に周辺視野課題が中心視野から離れる)、成績がかえって向上することがあり、課題難易度と成績が必ずしも相関しない場合があったが、VFIT-EVは全ての対象者において課題難易度が上がるほど、緩やかに成績が低下するという結果が得られた。今回の対象者はすべて日常的に運転しており、相応に運転頻度が高くかつ交通事故の経験もなかった。成績の平均値はステージ1(視野角4°)では90%を超えており、有効視野が狭くなった高齢者を測定するのに適した課題難易度であると考えられた。
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