本研究の最終的な目的は、高齢者の運転技能を活用し高齢者の自立と社会参加を促進するとともに安全な交通環境を構築するために、高齢者にも適用しうる自動車運転能力評価法を開発することである。 本年度は、①これまでに作成したパソコンを用いた有効視野測定システムの高齢者版検査課題プログラム(VFIT-EV)を用いた運転能力評価を、高齢の職業運転手(タクシードライバー)を対象にして実施し、運転能力評価の結果と実際の事故歴との関係を明らかにすること、②高齢者版有効視野測定システムをもの忘れ外来受診者および一般高齢ドライバーを対象者にして実施し、運転相談への活用とその有効性を検証することを目的とした。 ①高齢のタクシー運転手を対象として、高齢者版有効視野測定システムと机上検査(MMSE、TMTなど)を実施し、本人の承諾を得て会社から提供を受けた事故歴との関連を検討した。②もの忘れ外来においては、危険な運転をしているが本人の自覚が乏しく運転を止めさせられないという家族からの相談事例が多いが、これに対して高齢者版有効視野測定システムの成績を示すことによって運転能力についての本人の自覚を促し免許返納へ繋がるかを検討した。 その結果、①高齢者版有効視野測定システムと机上検査との間には一定の相関関係が認められたが、事故歴との間には有意な相関は認められなかった。②もの忘れ外来において運転相談を実施したが、認知症患者では高齢者版有効視野測定システムのデータが十分に得られず、その有用性を明らかにすることはできなかった。 高齢ドライバーが事故を起こす要因は複雑であり、職業として運転する場合と日常の足代わりに運転する場合との違いなど、認知機能以外の背景要因を含めて、今後さらに検討する必要がある。
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