大腿直筋が活動することにより膝蓋骨が上方に変位することに着目し、後傾時に膝蓋骨が上方に変位することに伴う感覚情報が位置情報となるのではないかと考え、以下の2つのことを検討した。 最初に、安静立位から後傾した場合の膝蓋骨の上方への変位の様相と、膝蓋骨が上方に変位したことの知覚について検討した。被験者は無作為に抽出した12名であった。一人の被験者に対して安静立位からの後傾を4試行ずつ行なわせた。12名中8名は4試行全てにおいて後傾に伴う膝蓋骨の上方変位が確認できた。3名は4試行ともに膝蓋骨の上方変位が確認できなかった。残りの1名は、膝蓋骨の変位が確認できた試行とできなかった試行とが混在していた。後傾時に膝蓋骨が変位する被験者とそうでない被験者の存在が明らかとなった。そして、膝蓋骨が上方変位した試行にける変位の大きさは平均9mmであり、膝蓋骨の変位を知覚できた試行の割合は約91%と高かった。膝蓋骨が上方変位を開始した立位位置と膝蓋骨の変位を知覚した立位位置との相関は、r=0.91と非常に高かった。このことから、安静立位から後傾した場合の膝蓋骨の上方への変位は、正確に知覚され、位置情報として重要である可能性が示唆された。 次に、安静立位からの後傾時に膝蓋骨が確実に上方へ変位する被験者14名を対象に、膝蓋骨の変位を知覚した立位位置に近い位置で知覚能が特異的に高まるか否かを立位位置再現能力から検討した。参照位置を、膝蓋骨の変位を知覚した立位位置に最も近い位置(膝蓋骨変位知覚位置)を中心として並べ替えた。その結果、膝蓋骨変位知覚位置での知覚誤差は小さく、最後傾位置での知覚能とほぼ同じ値を示し、その前方および後方の位置でのそれよりも小さく、前方の値との間に有意差が認めちれた。このことにより、膝蓋骨が上方に変位することによって発生する感覚情報は、位置情報として機能していた可能性が示唆された。
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