研究概要 |
23年度は以下の研究を行った。 1),骨格筋損傷に対する寒冷及び温熱刺激の影響を形態学的,免疫組織化学的に調べた。骨格筋に挫滅損傷を与え,直後に寒冷刺激を与えると,二次損傷やマクロファージの遊走が遅延し,その結果筋衛星細胞の分裂と分化が遅延し,再生筋の成熟が明らかに抑制された。また,マクロファージが分泌するTGF-β1のタイミングが乱れ,高度な線維化が起こり,これも再生筋の成熟を阻害する一因であることが明らかになった。これとは逆に,損傷筋に温熱刺激を与えると,二次損傷,マクロファージの遊走,衛星細胞の分裂と分化が促進され,筋の再生と再生筋の成熟が明らかに早まっていた。 2)マウスに下り坂走行をさせると,筋細胞膜の破壊は起こらないものの,筋線維内の微小な損傷が増強され筋の修復に長期間を要する。逆に温熱刺激を加えると,筋線維内の微小損傷は軽減され,筋の修復に要する期間が短縮された。これは,挫滅損傷の場合と全く別のメカニズムで,寒冷刺激や温熱刺激が影響を及ぼしていることを示している。 3)後肢懸垂と除神経によって下腿筋を萎縮させ,これに対して電気刺激を加えて,筋萎縮に対する電気刺激の影響を形態学的,生化学的に調べた。後肢懸垂に比べ,除神経によって筋萎縮はより高度に起こるが,電気刺激の影響は除神経群で確認された。除神経を行うと筋の収縮蛋白を分解するカルパインとユビキチン系がより高度かつ長期にわたって活性化されていたが,除神経群に電気刺激を与えると,両分解系の発現が明らかに抑制されていた。 これらについては現在論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筋障害に対する寒冷及び温熱刺激の影響に関しては,寒冷刺激が筋の再生に障害を及ぼしていること,逆に温熱刺激は筋の再生を促進している可能性を示すことができた。また,筋萎縮に対する電気刺激の影響に関しても,除神経による萎縮と非荷重による萎縮では電気刺激の抑制効果に違いがあり,筋分解系であるカルパイン系とユビキチン系の活性程度が異なり,除神経による萎縮では,これら蛋白分解系の活性が明らかに抑制されているなどの新しい所見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1)筋損傷における初期過程(二次変性,炎症反応,マクロファージの遊走,各種栄養因子,成長因子の発現など)に対する寒冷及び温熱刺激のメカニズムを解明する。 2)激しい運動後に起こるとされる,筋細胞膜の破綻を伴わない筋損傷に対する寒冷及び温熱刺激のメカニズムを明らかにする。 3)実際にスポーツ医学の場で行われている介入に似た動物実験モデルを作成し,その影響を観察する。
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