褥瘡の病態を解明し、予防法と治療法を開発するため、褥瘡の動物実験モデルの作製を試みた。 ラットの下腹部を切開し、腹膜腔に金メッキしたネオジム磁石(25×20×2mm)を挿入して縫合した。術後3、4日から、上腹部の皮膚に別の磁石(25×20×5mm)を当て、1日1回4時間100mmHgの圧力で腹壁を圧迫した。圧迫を連続5回繰り返すと、圧迫開始翌日から皮膚の浮腫と軽度の発赤がみられた。圧迫回数が増すと発赤が増強して、上皮欠損、皮膚の変色と壊死が生じ、5回圧迫後2、3日の間が最も傷害が重度だった。約8割の動物は、圧迫部が痂皮で覆われ、5回圧迫後1日から約1週間は圧迫部が板状に硬かった。また、5回圧迫後1-3日の間に圧迫部は明らかに収縮した。その後、痂皮は徐々に小さくなり、最後の圧迫から4-12日後頃に、多くは剥がれて深い潰瘍ができた。潰瘍は徐々に狭まって5回圧迫後20日には過半数が治癒した。以上のように、褥瘡の動物実験モデルが作製できたので、病態解明が進むと期待される。 次に、圧迫時間4時間で5回圧迫の条件は変更せず、圧力を変化させて調べた。圧力が70mmHgの場合、大部分のラットで、圧迫部の一部だけが変色して痂皮が形成された。60mmHgでは、傷害の程度は様々で、一般に70mmHgと比べて軽度だった。浮腫と発赤だけで回復するもの、一部の表皮欠損にとどまり痂皮が形成されなかったもの、圧迫部の一部で痂皮が形成されたものなどが観察された。50mmHgでは、まれに傷害が発生するラットもいたが、多くのラットは肉眼的、組織学的に異常は認められず、圧迫を最大10回繰り返しても異常は認められなかった。圧力が60mmHgで傷害が様々だったのは、圧力以外の要因が関与するためと推測される。また、圧力が50mmHg以下では、傷害を防ぐことができる可能性が示唆された。
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