褥瘡の病態を解明するため、褥瘡の動物実験モデルを確立した。手術でラット腹膜腔に金メッキしたネオジム磁石(25×20×2 mm)を埋め込み、術後3、4日から皮膚上に別の磁石(25×20×5 mm)を当ててこれら2つの磁石で腹壁を繰り返し圧迫した。無麻酔で1日1回4時間100 mmHgで連続5日圧迫を繰り返すと、高い割合で皮膚に壊死と潰瘍が生じた。 次に、圧力と傷害程度との関係を調べた。圧力を70、60、50 mmHgに変えて、1日1回4時間の圧迫を連続5日繰り返した。70と60 mmHgでは、浮腫、痂皮や潰瘍が生じたが、100 mmHgと比較して傷害面積が小さく傷害の発生頻度が低かった。50 mmHgでは、多くのラットは肉眼および顕微鏡レベルで異常を認めず、傷害が観察されたラットは少数だった。 さらに、圧力による傷害程度の違いが、虚血の差に原因があるか検討した。4週齢ラットを麻酔して人工呼吸し、腹壁を0から100 mmHgまで様々な圧力で圧迫しながら、トマトレクチン200μgを含む液200μlを心臓から注入して全身を循環させた。トマトレクチン注入2分後に人工呼吸を停止して5分後に腹壁を採取し、凍結切片を免疫染色して、内皮にトマトレクチンが結合した毛細血管の割合(血管開通率)を調べた。血管開通率は、圧力がかからない場合は約63% (n=5)だったが、10 mmHgでは約35% (n=5)で、圧力が増すと一層低下したが圧力依存性ではなく、50 mmHgと60 mmHg以上の間で有意差はなかった。したがって、50 mmHgでは60 mmHg以上より傷害が著しく軽いことは、虚血の差だけでは説明できなかった。結論として、50 mmHg程度より低い圧力では圧迫による傷害が発生しにくいと推測されること、褥瘡には長時間の虚血以外の要因も影響している可能性が示唆された。
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