機能性音声障害の病態に関する多角的な観点からの調査研究をする目的で,自覚的評価尺度を作成し,標準化作業を行なった.この研究は,研究代表者の所属する日本音声言語医学会音声情報委員会にてさらに全国規模の標準化作業として発展し,平成25年秋には学会発表および学会誌に掲載される予定である. 一方,機能性音声障害患者を外来診療で簡単に鑑別できるように,舌の前後および左右の交互反復運動を発声時と無発声時を比較して検討したところ,機能性音声障害患者では,反復回数や外舌筋と呼ばれるオトガイ舌骨筋の活動に発声時と無声時で健常者に比して明らかな差があることが示唆された.また,機能性音声障害患者では,発声時に無声時に比して心拍数が増加し,発声時に何らかのストレスに晒されていることが示唆された.この結果は,平成25年夏の国際音声言語医学会で発表する予定である. これらのことから,機能性音声障害の患者の鑑別には,喉頭ファイバースコピーや発声機能検査あるいは筋電図のような機器的検査をしなくても,自覚的評価尺度や舌の交互反復運動検査を行うことで,簡単に外来で鑑別できる可能性が高まった.すなわち,自覚的評価尺度では,尺度の機能的側面と身体的側面と感情的側面のうち,全側面において障害の自覚度が高いことがわかった.また,舌の前後方向あるいは左右方向への交互反復運動をできるだけ速く試行させた時に,発声を伴う時と発声を伴わない時を比べてみると明らかに発声時においては反復回数が減少し,運動の稚拙さが認められた.したがって,自覚的評価尺度における障害の自覚度の高さと舌の交互反復運動の稚拙さが認められれば,機能性音声障害である可能性がきわめて高いといえることがわかった.
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