呼吸運動評価スケールを作成するために、3次元動作解析装置を用いて健常者の呼吸運動を測定した。対象者は地域在住の20~74歳の健常者100名とし、20歳代~60歳以上までの各年代20名(男女各10名)で構成した。呼吸運動を測定するために、胸腹部上に13個の反射マーカを貼付した。背臥位と座位の2姿勢における安静呼吸(1分間)と深呼吸(3回)の呼吸運動を測定した。安静呼吸は安定した5呼吸、深呼吸は最大となるデータを抽出し、1/2呼吸分の反射マーカの移動距離を呼吸運動として求めた。得られたデータは、年代、姿勢、性の違いで比較した。その結果、安静背臥位における上部・下部胸郭呼吸運動の平均はおよそ3~4mm、腹部呼吸運動の平均はおよそ10mmであった。座位になることで、胸郭はおよそ0.5mm増大し、腹部は3mm減少した。背臥位における深呼吸時呼吸運動の平均は、胸郭がおよそ30mmで、腹部はおよそ37mmであった。座位では胸郭がおよそ2mm増大し、腹部がおよそ5mm減少した。以上のように、安静呼吸時の呼吸運動は、深呼吸に対して腹部は3割弱、胸郭は1割程度を示し、背臥位から座位になることで胸郭の呼吸運動が優位になることがわかった。年代別の比較では、安静背臥位では20歳代より60歳以上で腹部呼吸運動が増大し、深呼吸の呼吸運動は20歳代で大きいことから、胸郭可動性の低下に伴い高齢者では腹部呼吸が優位となった可能性が示唆された。さらに男女の比較では、男性では腹式呼吸、女性では胸式呼吸が優位であることが示された。以上の結果から、上部・下部胸郭および腹部の呼吸運動を5段階で評価する呼吸運動評価スケールの参考基準を得ることができた。
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