目的:主に劣位半球頭頂葉損傷による脳内感覚情報処理機能の障害に起因する半側空間無視(USN)の発症メカニズムは未だ明らかでなくリハビリテーションも限られ、日常生活や社会復帰の重大な妨げになっている。本研究では、頭頂葉を主病巣とする脳内感覚情報処理機能の障害で発症するUSNに対して、健常脳での視覚系と前庭・小脳系との相反抑制機能を念頭に置き、(1)一側前庭神経の機能を経頭蓋直流電流刺激(tDcs)で非侵襲的に抑制させ、USNの即時的な症状改善の有無を心理物理学的(運動視刺激の認知閾値)、電気生理学的(事象関連電位(ERP)、探索眼球運動)に検討すること、(2)3次元動画像の長時間視聴による視覚認知訓練とtDCSを組み合わせた新たなリハビリテーションを考案しその長期的効果を検討すること、を目的とする。本年度は、USNにおける探索眼球運動(EBMs)と運動視刺激(OF)によるERPを記録し、健常者群と比較検討した。結果:USN群で健常者群と比べ有意に左側の注視点数や総移動距離が減少し平均注視時間の延長が認められ、さらに、USN群ではEEMsとBlT行動性無視検査に有意な相関を認めた。さらに、白色ドットによる運動視刺激を用いた認知閾値は、OF刺激の中心位置が左側に5度ずれると、USN群の認知閾値がドットのコヒーレントレベルでほぼ100%まで上昇しないと認知できなかった。また、OF刺激の中心位置が右側に5度ずれた場合もUSN群の認知閾値が健常若年者や健常老年者に比べて有意に上昇していた(p<0.01)。考察:本研究でのEEMsの結果や運動視刺激を用いた心理物理学的結果を解釈すると、USNでは右半球損傷によって左側への空間性注意障害が生じたことで注視が右側に偏位してしまい、右側のある範囲でしか視覚探索を行えない結果になったと考えられた。
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