本研究の目的は、日本語話者の発達性ディスレクシア成人例について、その障害構造や社会参加という観点から検討することにある。これまでの期間でまず基準値を作成し、さらに英国で初めて発達性ディスレクシアと診断評価された日本語話者の成人例の読み書き能力や認知機能に関する調査を実施してきた。 平成25年度は、英国Royal College of artのdyslexiaコーディネーターであるQona Rankin氏の協力を得て、同校留学中の日本語話者に関する調査を継続して実施した。また、平成22年度に収集した高校3年生のデータに加えて、日本の大学の芸術系学部の修士課程に在学中の発達性ディスレクシアのない日本語話者のデータを収集した。 British Dyslexia AssociationのInternational conferenceにて以下の内容を発表した。英国にて発達性読み書き障害と診断評価された日本語話者の留学生のうち、日本語の読み書きにおいても、基準値と比較して低い得点であった参加者が6名中2名存在した。いずれも、読み速度の課題において基準値より有意に長い時間を要していた。また、読み書きに関連した認知機能については、この2例はRAN(rapid automatized naming)課題における所要時間が基準値に比して有意に延長していた。この2例は日本においては読み書きに問題があるとの評価は得ていなかった。症状が軽かったため見過ごされた可能性、あるいは学校教育現場で発達性ディスレクシアに関する認知が十分になされていないことを反映する結果とも考えられる。一方、4名については日本語の読み書きについて明らかな問題は認められなかった。この結果は、発達性ディスレクシアの発現要因が言語体系によって異なるという近年の指摘を支持する結果とも考えられた。
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