これまで我々は、坐骨神経を切断した筋萎縮モデルラットを用い、筋に周期的な機械刺激を加えると、萎縮が軽減されることを明らかにしてきた。しかし、どのような機械刺激量を加えると筋萎縮を軽減できるのか、また、どのような刺激方法が最も効果的なのかは未だ明らかでない。 本研究では、筋に対して一定の刺激を加えることが可能な小動物用足関節運動装置を用いて、筋に加える刺激量 (伸張刺激の強度と時間の積) を統一し、萎縮筋に対して、周波数が異なる伸張刺激を加えた時の筋線維横断面積を比較した。除神経ラットのヒラメ筋に対し、除神経翌日から13日間毎日伸張刺激を加えた。伸張刺激の強度は全群同じとし、足関節背屈運動中のヒラメ筋伸張位を保持する時間を1、5、25、450秒とすることで、加える伸張刺激の周波数が異なる1秒群、5秒群、25秒群、450秒群を作製した。除神経14日後にヒラメ筋を採取、筋線維横断面積を測定した。その結果、450秒群、25秒群の筋線維横断面積は非伸張群と違いはなかったが、周波数の高い5秒群はそれら3群に比べ有意に大きかった。ところが更に周波数の高い1秒群は、 5秒群に比べ有意に小さかった。また、筋構成蛋白質の合成に関わるAktの活性を調べたところ、伸張位にて5秒保持する伸張刺激を加えた群のAkt活性は非伸張群比べ高い値を示した。一方、450秒、25秒、1秒保持の伸張刺激を加えた群のAkt活性は非伸張群と有意な違いはなかった。 以上のことより、ラット除神経筋に対する伸張刺激による筋萎縮軽減効果は、加える伸張刺激の周波数によって異なり、ある周波数帯の伸張刺激で効果が得られ、それよりも周波数が高くても低くても効果が減少することが判明した。この結果は、人を対象として伸張刺激による筋萎縮軽減効果を検証する際に、伸張刺激の周波数に着目し検証することの重要性を示すものであると考える。
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