実験にはネンブタール麻酔下もしくは除脳した成ネコを用いた。頭蓋骨切除を行い脳幹背面を露出させ硬膜を切開し、タングステン微小電極を刺入して、橋内を刺激し排便中枢を探索した。その結果、安定した排便運動を誘発させることができなかった。そのため麻酔を比較的脊髄が活動的な状態で維持できるウレタン麻酔に変更し、直腸内にゴム風船を挿入することによって、安定した排便運動を誘発することに成功した。 次に、外腹斜筋・腹直筋・内腹斜筋・腹横筋・外肛門括約筋もしくはそれらの支配神経に記録電極を装着、外肛門括約筋に筋電図記録用の針電極を刺入し、その活動を記録できるようにした。直腸内圧を記録できるようにしたゴム風船を直腸内に挿入して排便運動を誘発し、直腸内圧と各筋の活動を記録した。実験終了後、コンピューターソフトウェアを用いて直腸内圧の変化と腹壁筋群、括約筋群の活動のパターンについて解析した。結果、直腸内圧の上昇に伴い陰部神経肛門枝の放電は増加し、バルーン排出中は放電が減少するものの、一定の活動レベルを維持していることが明らかになった。一方、外肛門括約筋の筋電図は排便運動時に生じるアーチファクトによって一時的に記録ができなくなった。脊髄ネコを用いた先行研究において直腸内圧を上昇させるとそれに同期して外肛門括約筋の筋電放電が消失するという報告がなされ、その結果が広く受け入れられてきたが、我々が示したデータのそれとは異なるものである。これらの差異は恐らく、外肛門括約筋の活動レベルの判定に筋電図を用いたか、末梢神経の電位を用いたかの違いに起因するものと考えられる。
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